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まだ、魔物も居ない時代の時。
喋り方が難しい。
けど、書いてみた。
今回は、続きにしてみる。
【気づいたら、知らない場所に居ました】
勇者候補として、王都に旅立つ前日の事。
勇者クレアシオンの物語を読んでいた。
子供の時から好きな本で、勉強が嫌いなボクも、この本だけは読んでいた。
いつか、クレアシオンみたいな勇者になりたいと思いながら。
読み終わった後、ボクは、自分のベッドで寝ていた。
だけど、目を覚ました時は、全く知らない場所に居た。
そんなボクを見ている人が居る。
ボクの知らない人だ。
「んー…何か失敗したみたい。 シーたんに知られたら怒られそうだ」
「あの、ここはどこですか?」
ボクは、今、自分の置かれている状況が分からなかった。
だから、目の前に居る人に聞いてみた。
だけど、答えは返ってこない。
どうやら、自分の考えに没頭していて聞こえてない感じだ。
どうしたらいいのか困っていると、部屋の外から扉の開く音が聞こえた。
「帰ったぞ」
「まずい、シーたんが帰ってきた!」
シーたんって誰だろう?
この人の家族かな?
「シーたん、待った!」
「何言ってんだ? 入るぞ」
この部屋の扉が開いた。
部屋に入ってきたのは、ボクと同じくらいの子だった。
そして、その子がボクを見ている。
その目は、不審な人物を見る目だ。
普通に考えれば、知らない人間が家の中に居たら、そうなると思う。
「そいつは誰だ?」
「いや…これは…その…」
「誰だと聞いている」
入ってきた子は、男の人を正座させた後、質問をしていた。
ボクは関係ないはずなのに、なぜか、ボクまで正座させられている。
「…実験に失敗しました」
「…で、失敗してどうした?」
「隣にいる少年が出てきたか、な?」
その説明を聞いた男の子は、今度はボクの方を向いた。
「お前、どこから来たんだ?」
「どこからって言われても、それはボクの知りたい事でもあるよ?」
「と、言うと?」
「ボクは、自分の部屋で寝ていたんだ。 けど、目を覚ましたらこの場所に居て…」
「そういう事か、おい、こいつを元の場所に帰してやれ」
「ボク、帰れるの?」
ボクは、隣に居る人を見る。
男の子の方も、隣に居る人を見ている。
「ごめん、無理」
「え?」
「は?」
「さっきも言ったけど、実験が失敗したからであって、どうやったのか分からないんだよね」
「お前!」
「それじゃあ、ボクは帰れないの?」
…勇者候補として旅に出たら、すぐには家には帰れない。
それは覚悟していたけど、違う意味で家に帰れなくなるとは思わなかった。
ここがボクの知らない所なら、二度と母さんに会えないって事だ。
そう思ったら、悲しくなってきた。
気づいたら、涙が溢れてきていた。
泣いたら駄目だって分かっているのに、涙が止まらない。
「男なら泣くな」
「分かってるけど…止まらない…んだ…」
「なあ、こっちに来れたって事は、帰る事も可能なんじゃないのか?」
男の子が隣に居る人に話しかけてる。
「出来なくはないだろうけど、期待はしないでね」
「それを何とかするのがお前だろ!」
「ボクにだって、出来る事と出来ない事があるんだよ!」
「自分の蒔いた種だろうが!」
「そうなんだけど…」
「ちゃんと帰してやれ」
「一応は研究はするけど、本当に期待はしないように」
仲のいい親子だな。
二人のやり取りを見ている内に、涙が止まっていた。
「おい」
「…何?」
「行く場所ないんだろう?」
「うん…」
「帰れるまでの間、この家に居ればいい」
「いいの?」
「オレの父親の責任だからな、当然だ」
「…ありがとう」
「お前も文句はないよな?」
「シーたんが決めた事に反対はしないよ」
「…暫くの間、宜しくお願いします」
優しい人達で良かった。
「オレはシオンだ、で、こっちがルキメデス」
「ボクはアルバって言うんだ」
「自己紹介も終わった所で、ボクは研究の続きをしようかな」
「ちゃんと、帰す方法を探せよ」
「はいはい」
「ったく、いつまでもここに居ても仕方ないから、部屋に行くぞ。案内してやる」
「あ、うん」
ボクは、シオンの後を追いかける。
案内された部屋を開けると、普段は使われてないのだろう、開けた瞬間埃が舞った。
「普段は使ってない部屋だから、汚いのは我慢しろよ」
「大丈夫、置いてもらえるだけで十分だから」
「まずは掃除からだな」
「お前も手伝えよ」
「うん」
シオンと二人で、部屋の掃除を終わらせた。
「大体、こんなもんだろ」
「シオン、ありがとう」
「それ、さっきも聞いたぞ」
「言いたくなったんだよ」
「普通は怒る所なんじゃないのか?」
「何で?」
「不可抗力だったとはいえ、知らない所に連れてこられて、帰れないかもしれないんだぞ?」
「確かにそうだよね。 でも、怒りって言うのは出てこないな」
「お前って、変」
「そうかな?」
「ああ、変だ」
「だって、事故だって分かってるし、怒る事なんてしないよ」
「ふーん、まあ、お前が納得しているならいい」
「シオンって優しいね」
「何でそうなる?」
「見ず知らずのボクを、こうして家に置いてくれてるし」
「それは、オレの父親のせいだからと言っただろ」
「見ず知らずのボクを心配もしてくれるし」
「今は、知らない相手じゃないだろう」
「…そっか」
「何だ?」
「やっぱり、優しいねって思っただけだよ」
シオンは優しい。
最初はボクの事を警戒していたけど、その理由を知ったら、普通に接してくれるようになった。
こうして家にも置いてくれる。
帰れないのは悲しいし、辛いけど、ボクの事を考えてくれる人が居る。
それだけで十分だと思う。
いつか帰れる事を信じて、彼らと暮らしていこう。
この知らない場所で。